最初に私が生まれたのは、彼が中学を卒業する間もない日だった。
当時、彼には仲の良いクラスメイトがいた。席は隣同士、同じ給食係で、お互いにボケとツッコミを繰り返しては楽しい時間を過ごしていた。
彼自身は気付いてなかったけれど、彼は彼女のことが好きだった。


しかし、何気ない彼の一言によって、別れは突然に訪れた。


彼は己を呪った。苦悩した。こんな想いをこの先も繰り返すかもしれないのなら、誰も好きにならなければいい。誰とも関わらなければいい。誰かを傷つけることも、自分自身が傷つくこともない。今にしてみれば幼稚な葛藤も、当時の彼には精一杯の自己修復だったのだ。


そして、彼は孤独へと身を委ねた。


だが、彼の心は、人を愛する気持ちそのものを忘れたわけではなかった。
どうすれば気付かれず、キモチを体現できるだろうか?
人を愛するという葛藤の中で彼が選んだもの、それがアイドルだった。


私は、そんな彼の中に残っていたココロから生まれた。


それから10年近い月日が流れた。
その長い時間によって失ったものは、はかりしれない。アイドル以外の存在を愛することを恐れ、自分の気持ちを深奥へとひた隠して、何が喜びで、何が哀しみなのか判然とせぬ気持ちのまま、それでも彼は前を向いて生き続けた。


そして、「僕」が生まれた。
「僕」の事は「僕」自身の口から語られるだろう。
あるいは、「僕」は何も語らないかもしれない。
「僕」にとって信じられるものは「アイドル」以外にないのだから。


でも、ようやく彼には心から好きだと言える人ができた。
そう、本当に彼は心から告白した。そんな彼を私は羨ましくも、恥ずかしくも感じる。あの日、12月4日の夜、電話ごしに伝えた想いは、今でも忘れていないだろう。


私は彼。彼のために生まれた存在。彼が孤独を求めるなら孤独を、愛を求めるならば、決して絶えることのない情熱を与えていこう。


それが、私の存在する意味。存在するための意義。


彼のために生きよう。


私が彼であるかぎり永遠に。